2017年5月22日月曜日

「給与の見える化」や「360度評価」が難しかったこと



「同僚の給与を“見える化”したら、社内はどうなるか?」というコラム記事を見ました。

情報通信業のGMOインターネットでは、給与額の枠とリンクしている「等級ランクの公開」をしているそうです。
同社の人事評価では、6段階の等級とその中にランクがあり、この等級とランクごとに給与額の枠が定められており、自己目標の達成度に応じて給与が決定する仕組みとのことです。

この等級ランクを決めるのが、他部署を含めた、業務に関わる人たちによる匿名の「360度評価」で、会社の人事部は「等級に値する仕事をしているかどうか、保身的な低い目標が減り、次に自分は何をすべきかを考えて目標を立て、自分の立場に責任をもちながら仕事に取り組むようになった」と評価しています。
「360度評価の公平な評価によって不満がなくなった」
「給与額がオープンになったことで、仕事に責任を持つようになった」
という効果があったとのことです。

人事施策というのは、明暗の両面が考えられ、特に悪影響を懸念して躊躇することも多いですが、こういう成功事例ということのは参考になることです。

ただ、私が今まで見てきた「給与見える化」や「360度評価」は、必ずしもこんな好ましい状況ではなく、どちらかといえば失敗と言ってもよいものでした。

まず「給与の見える化」ですが、厳密には給与額を明らかにしたということではなく、「等級ランクの公開」ということでした。ただ、給与額のレンジは当然わかりますから、おおむね推測ができるということでは、「給与の見える化」と言ってもよいものです。

ここで起こったことは、とにかく“上司不満”と“評価結果への不信”の増幅ということでした。
この会社では、従来からの組織風土として、どちらかといえば情報格差や権威を使ってマネジメントしようとする管理職が多く、上司と部下の距離感も近いとはいえなかったため、これを打破するための制度改革ということでした。
しかし、蓋を開けてみると、そもそもの不振や不満の度合いが高く、なおかつ表に出ずに潜在化していたこともあり、「等級ランクの公開」がさらにそれらを増幅、爆発させてしまったということでした。
私にはこれらをどうやって修正、収束させていくかという相談でしたが、一度公開したものをまた元に戻すのでは、さらに不満が膨らみますから、評価制度の見直しやマネージャー教育などの施策をしながら、良い方向に向かうまでには数年の期間が必要でした。

もう一つ、「360度評価」については、ある会社がどうしてもやりたいということで、テスト的に実施したということがありました。わりとおとなしい性格の管理職が多く、自分の役割認識が薄いため、これを刺激したいという意図がありました。
そこで出てきた結果は、ある部分では人気投票、ある部分では一方的なダメ出し、またある部分ではちょっと高めの無難な採点など、あまり有用とは言えない評価でした。
評価項目や評価基準といったものは一応準備されていましたが、やはり他人を評価する経験が少ない一般社員に、ごく簡単なレクチャーだけで実施してしまったという問題がありました。
私がかかわったのは、ちょうどこの後のタイミングです。

このまま続けていけば、慣れで多少は改善される部分もあったでしょうが、「360度評価」の場合は、間で板挟みになる管理職へのプレッシャーが大きすぎるという課題もあり、ここでの導入は見送って、職制や部署をまたがって構成する「三者面談」の導入など、コミュニケーション強化の施策に方向転換をしました。

このように、同じような組み合わせで同じような施策を取ったとしても、その効果の出方は正反対になることがあります。
記事で紹介されていた成功例も、企業スペックを見るとわりと平均年齢が若いIT業界の会社ということで、その風土にうまくはまったということでしょう。他の要因も当然あると思います。

組織改革を進める上で、新しい取り組みをしなければ何も変わりませんが、自社に合わない取り組みでは、せっかくの苦労も台無しになります。
自社の状況をいかに見極めるかは、とても重要なことです。

2017年5月19日金曜日

「採用直結のインターン」は本当に学業を妨げるのか?



学生が企業で就業体験をするインターンシップのあり方を検討してきた文部科学省などの有識者会議が、「企業の採用活動に直結するインターンは認めない」とする結論をまとめたとの報道がありました。

この有識者会議は、どちらかといえばインターンシップを推進する立場という認識があったので調べてみると、正式名は「インターンシップの推進等に関する調査研究協力者会議」ということで、やはり基本的なスタンスは「推進」ということだと思います。

今回の報道に関して、この会の議事録などを見てみると、どうもこの“採用直結”というところがカギのようで、議論の骨子として
「就職・採用活動の早期化・長期化につながることは避けるべき」
「インターンシップが就職・採用活動そのものとして行われることのないようにする」
ということがうたわれていました。

原則5日間以上のプログラムを「単位型インターンシップ」として大学の単位として認めていくことを考えているようで、あくまで学業の一環として、逆に採用活動と結び付けられることをかなり警戒している様子がうかがえました。
学生の就職活動の早期化と長期化を助長し、学業を妨げるという理由のようです。

私は今まで長らく新卒採用の現場に関わってきましたが、インターンシップは活用の仕方次第でお互いのミスマッチが避けられる、重要な取り組みになり得ると思っています。
今は確かに会社説明会の一部としか思えない、名ばかりのインターンシップがありますから、それではミスマッチを減らす効果はあまりないでしょうし、もちろん純粋に就業体験だけをして、将来の職業選択の糧にするということはあるでしょう。
しかし、どうせやるならばもっと具体的、直接的に役立てたいと考えるのは、学生も企業も同じではないかと思います。それを無理やり切り離したり禁止したりしても、結局は水面下の裏の動きが増えるだけのことになってしまうでしょう。

かつての就職氷河期の頃、なかなか内定が出ずに長い期間苦労する学生たちを見ていた時には、長引く就職活動は問題が多いと思っていました。ただ、最近のような売り手市場の中で、正式には選考解禁前のこの時期に、すでに3人に1人は内定があるというような状況であれば、長期化する人がそこまで多くはならないでしょう。

また、俗に言われる青田買いや早期化も、そのこと自体私は悪いことだとは思いません。
例えば、学生時代のアルバイト先から、「卒業したらうちで働かない?」などと誘われる人がいると思います。ずいぶん早い時期から言われることもあるかもしれませんが、当事者同士が納得するならば、それは別に悪いことではありません。お互いをよく知っているということで、少なくとも初期段階でのミスマッチはありません。

そもそも早期化といっても、企業の立場で2年も3年も先の内定を出せるはずはなく、学生の立場でもそんな内定は承諾できるはずもありません。早まったとしても大学であれば3年生くらいまでのことで、なおかつ早く決まってしまえば、その後は学業に専念することができます。

さらに新卒採用のやり方も、少子化がどんどん進む中で今のような一括採用ができるのは、一部の大手企業に限られてくるだろうと思います。学生個々の都合で就職活動をする時期はまちまちになったり、それによって企業も通年採用に移行せざるを得なくなっていったりするのではないでしょうか。

議論の経緯を見ていて感じてしまうのは、どうも学校関係者と企業関係者の間で、お互いが自分たちの都合優先の話でせめぎ合っているようで、せっかくの議論が実態とそぐわないものになってしまわないかと心配になります。

ただし書きはあるにしても、「インターンシップを推進する会議」から「インターンシップは認めない」という言葉が出てきてしまうのは、あまりイメージがよろしくありません。

2017年5月17日水曜日

「計画作り」に疲れて「実行」がおろそかになってしまう話



最近目にしたコラムで、PDCA(Plan-Do-Check-Actionを批判的に取り扱ったものがありました。
無理な計画、過剰な計画づくりの元凶であり、部下の行動を細かく管理するマイクロ・マネジメント体制のもとで、評価されることしかやらない「受け身体質」の社員を生みだしてしまっているとされています。

私は、PDCAというのはあくまでツールであり、うまくいくかいかないかは使い方次第だと思いますので、これがまったく無意味なこととは思いません。
ただ、PDCAが理由かどうかにかかわらず、「日本人の計画好き」という点については、いくつか思い当たることがあります。

例えば人事の仕組みの中では、目標管理のような制度を運用しているケースは多いですが、多くの会社で見られるのは、「目標設定は一生懸命にやるが、その後の実行がおろそかになる」という場合が多いことです。計画ができたところで何となく達成感を持って満足してしまうのか、その後の実行のための取り組みは、概して弱くなりがちです。途中で目標の見直しもせず、結果的に達成もできず、評価も良くはなりません。

さらに、このまま何年か運用し続けていると、目標設定すること自体も形骸化していきます。毎年なかば事務的に同じような目標を立て、毎年同じように達成できずに終わりますから、制度としての意味を成しません。

こうなってしまう会社の多くに見られるのは、特に制度導入初年度の目標設定の際に、やたらと気合が入っているということです。時間をかけて何度も面談やフィードバック、手直しを繰り返して、ようやく目標が確定しますが、その頃の様子は上司も部下も「ようやく終わった」というほっとした雰囲気が見て取れます。

こういうことは目標管理制度だけでなく、会社の事業計画などでも見かけます。
事業シナリオや予算などを相当な時間をかけて練り上げますが、やはりその後の実行力の弱さを感じます。計画未達が見えてきても、時間をかけて決めた計画だということもあり、変更することを嫌がることという印象があります。

なぜこうなるのか、私が思っている原因は単純で、「計画を一生懸命やり過ぎているから」ということです。時間をかけて一生懸命にやればやるほど、それができあがった時の達成感は大きくなります。計画策定というゴールの達成感が大きすぎ、その後の実行フェーズに向かう余力がありません。これは精神的、心理的な部分も大きいと思います。

また、時間と労力をかけて作り上げたものであればあるほど、それを壊すことは避けたいと考えるのが人情です。社長がどんなに号令をかけたとしても、そういう計画であればあるほど、計画づくりにかかわった人たちの動きは鈍くなりがちで、方向転換はしづらくなります。

こういう傾向がある会社では、計画づくりをもう少し柔軟にすることが必要です。その一方、柔軟にし過ぎて計画が有名無実化してしまったり、達成度を厳しく問う会社では、できるだけ目標のレベルを下げようという動きが出がちであったり、バランスのとり方はなかなか難しいものがあります。

ただ、こういう見極めをしながらマネジメントしていくということでは、それがまさにPDCAですから、やはりツールの使い方の問題だということがわかります。

計画はやり過ぎてもなさ過ぎてもダメだということだと思います。