2017年2月1日水曜日

「共通の敵」を作ることで組織は改善しないと思ったこと



少し前の話ですが、ある企業から、新たに導入した人事制度がうまく運用できていないということで、ご相談を受けた時のことです。

私が見たところでは、制度自体にそれほど大きな問題は見当たらず、逆によく考えて作り込んであるそれなりの出来栄えのものです。
問題と思われたのは社内のコンセンサス作りの部分で、特にある事業部長クラスの管理職が、「新しい人事制度は良くない」と社内のいろいろな場所に行ってはそのことを吹聴しているようでした。

言っていることは、何か大きな問題指摘があるとか、対案があるということではなく、ただ「前の制度の方が良かった」と言っているようですが、新しい制度では最後に鉛筆をなめるような個人的主観が極力持ち込まれないような仕組みをとっていたので、おそらくそのあたりが不満だったようです。

どうもこの事業部長は、過去にも会社が実施した施策に不満を言い続けて骨抜きにしてしまったようなことがあったらしく、人事部門もそれなりに気を使って制度検討を進めていたようですが、最終的にはこの人を納得させられなかったということらしいです。できれば外部専門家の知識や権威、お墨付きを使いながら、社内への浸透を進めたいということでした。

まずは私から当該の事業部長に話を聞くことになりましたが、その内容は人事制度の話というよりは完全な「人事部批判」「人事施策批判」となっていて、しきりに「社員はみんなそう思っている」と言います。確かに賛同する社員はいるようですが、それが本当に“みんな”なのかどうかは何とも言えません。
そもそも制度変更というのは、それまで評価されなかった部分が日の目を見るとか、放置されていた不公正が正されるとか、決して全員にデメリットばかりが起こるわけはないので、「社員みんなが」ということには普通はなりません。

こういう場合、一部制度を見直すことはありますが、きちんと周知をしながら何度かの運用フェーズをこなしていくと、ほとんどの場合は沈静化していきます。ただ、この会社の場合はナンバー3、4あたりに位置する事業部長が元凶だったので、社長から問答無用で押さえつけてもらうようなこともしなければならず、社内だけでは解決が難しかっただろうと今でも思っています。

ここでの問題は、組織においてある程度の権限を持った「権力者」が、組織内で「共通の敵」を作ってそれを徹底的に批判することで、自分と自分に近い一部の社員に都合が良い環境を作り出そうとしているということです。「組織の全体最適」を会社の上層部の人間が考慮していないということです。こういう場合は、軌道に乗せるまでにはなかなか時間がかかってしまいます。

最近、この時の件をついつい思い出してしまうことが起こっています。アメリカのトランプ大統領です。あの人の考える全体最適の範囲は、「国家全体」というよりは「自分の支持者」というように見えますし、「“自分たちの考える全体”以外の誰か」を共通の敵にしているところも似ています。さらにはその国のナンバー1、世界でも1、2を争う権力者です。

「“全体最適の範囲”を全世界にしろ」とまで言うのは、さすがに理想論が過ぎると思いますが、大国の指導者が“狭い全体最適”のために“他者攻撃”ばかりを始めたら、彼自身の支持者のとってもたぶん良い結果を得られることはほとんどないように思います。

こんな昔の自分の体験を思い出しながら、世界全体が少しでも良い方向に進んでくれることを願うばかりです。


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