2017年1月6日金曜日

立場によって視点が正反対の「働き方改革」をまとめるには



政府が成長戦略の一環と位置付けたこともあり、至るところで「働き方改革」という言葉が聞かれるようになりました。
誰からもこれを否定するような声はなく、様々な立場を超えて「これからは必須の取り組みである」ということが強調されています。もちろん私もこの動きについてはまったく異論ありません。

ただ、この「働き方改革」で言われていることには、矛盾する正反対の視点が含まれています。
一つは「ワーク・ライフ・バランスの改善」という視点です。これを実現すれば、長時間労働など仕事に偏った働く人たち生活が改善され、家事や病気療養、育児・介護といったこととの両立が可能になり、女性や高齢者にとっても働きやすい環境が作られるといいます。これを一言で言ってしまえば「働く時間をもっと減らそう」ということです。

もう一つの視点は「生産性の向上」ということです。これから労働人口が減っていく中でも、経済成長をしなければならない、もっと賃金を上げて豊かになる必要があるということです。この言い方を変えれば「もっと稼ごう」ということで、その中身は別にして、「もっと働こう」ということに近いと思います。



このように「働き方改革」でやろうとしているのは、単純化して考えると、「働く時間を減らそう」と「働いて稼ごう」という正反対のことを両方実現しようとしているということです。

ここで立場による視点の違いが出てきます。経営者、会社の立場では、「生産性の向上」に関する意識が強いと思います。結果として、「同じ業務量を短時間でこなせ!」という施策が増えるでしょう。

一方、働く人たち、従業員の立場では、「働く時間を減らそう」という意識が強いと思います。育児介護休業や有休消化率や、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の実現といった部分への意識が強いでしょう。自分たちの働き方が楽になるという期待を持っているはずです。

こんな矛盾の両立を目指そうとすると、一般的な企業であれば、当然経営者、会社からの視点が強く出がちになります。最近の例では、残業削減の締め付けが強くなり、しかし業務量は変わらず、人員も増えず、家まで仕事を持ち帰ってのサービス残業が増えているというような話があります。
自分たちが楽になると期待していた社員の側からすれば、「結局何も変わらない」などと、前向きな取り組みを止めてしまう懸念があります。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」などといいますが、「働き方改革」も片方の視点だけで一方的に進めては、そんな状態になりかねません。
“一兎をも得ず”とならないためには、双方が同じ方向を向いて、少しずつ歩み寄りながら物事を進めていくしかありません。残業削減は業務改善とセットで進めなければ実効性がありませんし、そのためにはIT化や人材への投資も必要になるでしょう。これは会社側の責任分野です。
一方で社員の側も、効率的に仕事を進める努力をしなければなりません。目的を見失ったような仕事を何も考えずに慣例だけで行っていたり、無駄な会議や生活残業、年中喫煙所で休憩しているような社員など、直せる余地は山のようにあるはずです。権利を行使するには義務を果たすことも必要です。

「働き方改革」は、“働く時間を減らしながら、生産性を維持向上する”という矛盾を両立しなければ、それが実現したとは言えません。立場によって視点が正反対の“二兎を追っている”からこそ、双方の歩み寄りと協力が必要ではないでしょうか。


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