2016年7月27日水曜日

「敵が少ない」が良いことではなかったという話



「相手に好かれなかったとしても、せめて嫌われなければその方が良い」などと言う人がいます。
私自身も、どちらかというとこういう考え方をするタイプで、自分としての限界は当然ありますが、できるだけ多くの人と幅広く、フラットに付き合いたいと思っています。「付き合いが広い」と言われることも、「八方美人」と言われることもありますが、「敵が少ない」に越したことはないと思っています。

しかし、今回の話は、この考え方にはちょっと反するような内容です。

ある会社の社長ですが、最近先代から社長の座を譲られた新社長です。先代社長は会長となり、第一線からは退く形になっていますが、社長を譲って数カ月が経ち、どうもこのままではまずいと思っているそうです。

その理由は、新しい社長が「自分からは何もしない」からだそうです。「社長の仕事を何もしない」という言い方をしています。
これは会長からの一方的な話なので、多少言い過ぎのところもあるでしょうが、一部の社員にそれとなく聞いても同じようなことを言うので、社長の行動に問題があるのは確かだろうと思います。

特に「自分からは何もしない」ということについて言えば、どうも人と会うことがあまり好きではないらしく、社長として顔を出してほしい会合、会ってほしい顧客や協力会社など、現場が相当にプッシュして、ようやく嫌々出てくる感じなのだそうです。
会社には毎日きちんと出社してきて、終業時間に近い頃まではいるそうですが、来客はそれほど多くなく、夜の付き合いもほとんどしません。
また、仕事の上でも、自分から何か資料を要求するようなことはなく、現場がまとめて上げてくる経営資料や報告資料などには目を通してコメントするものの、何か指示らしい指示が出てくることはないそうです。

しかし、この新社長は、会長が自分自身の目で選んでいます。なぜかと理由を聞いてみると、本当にがっかりした顔をしながらとおっしゃったのは、「一番敵が少なかったから」ということでした。

聞けば、どうも他にも候補者は2人ほど頭の中にあったそうで、その人たちも含めた3人の候補者のそれまでの実績には大きな違いがなく、能力的にはほぼ横並びと見ていたそうです。
ただ、新社長以外の2人は、それぞれ多少癖があって、部下、顧客、その他周囲からの評判は、善し悪しが二分されていたのだそうです。それに対して新社長だけが、人間関係の良くない評判はほとんどなく、それほど好かれている様子ではなかったものの、最終的にはそれが決め手で選んだのだそうです。

しかし、今となってみると、「敵が少ない」のは自己主張がなかったから軋轢を生まなかっただけであり、過去の実績も、自己主張しない上司を、部下たちがうまく転がしてくれていたからだとわかったそうです。「自分からは何もしない」から、誰とも対立することがなく、その結果として何となく「敵が少なかった」ということだったようです。

会長は、「自分の見込み違いだった」「うわべしか見ていなかった」「人を見る目がなかった」などと、反省しきりです。こちらの会社は、もう一度会長が仕切ることで、組織の立て直しをしていくのでしょう。どこかで社長も交代するのかもしれません。

このお話は、私の経験でもほとんど聞いたことがない、「敵が少ないこと」がマイナスに作用したという例ですが、考えてみれば、他人との接点がなければ敵などが生まれるはずもなく、そういう状態での「敵が少ない」は、裏を返せば「人付き合いがない」「議論をしない」「自己主張がない」などということにつながっています。

「敵が少ない」も、反対に「敵が多い」も、実はその中身をよく見なければいけないのかもしれません。

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