2016年4月27日水曜日

「ミスマッチ制度」は厳しいようで実は親切なのかもしれない



関係先の企業から、ときどき社員との面談を依頼されることがあります。その理由は、あまり仕事がうまくいっていない、何か悩みがありそうなどという様子が見られるので、それを社外専門家の立場で話を聞いて、できればアドバイスの一つでもして欲しいとのことです。
たぶん、上司や社員同士でも聞くことができる内容だと思いますが、あえて第三者の立場で話を聞くことが、時に良い効果が得られることもあるようです。

私がお話を聞くような場合は、どちらかと言えば良い状態といえない社員が対象ですが、やはりその中には今の仕事に対する適性そのものが不足しているような人もいますから、なかなか前向きな話をすることが難しい場合もあります。私の立場から辞めるのを勧めるようなことはありませんが、正直言って「今のまま無理して続けていても幸せになれないのでは」などと思ってしまうこともあります。

こんな話と少し関連して、インターネットサービス大手のサイバーエージェントでは、社員に対して部署異動または退職勧奨を行う「ミスマッチ制度」というものがあるそうです。
これを聞くだけでは、マイナスイメージばかりを持ってしまうかもしれませんが、そもそもの考え方は、「この会社で成長や昇進の見込みがないのであれば、それを率直に伝える方がよほど誠実ではないか」ということで、制度運用としても、各部門から「ミスマッチ候補者」を必ず出すことは義務付けるものの、無理やり探し出すような機械的な運用はせず、最終的には警告、イエローカード、レッドカードの三段階のどれにあたるかを、役員会の決議で決めるそうです。

最も重視しているのは「価値観の一致」だそうで、成果が出ないから早く切り捨てようということではなく、たとえパフォーマンスが相対的に低かったとしても、能力に合った給与を支払う形で、チームとして一丸となってもらえれば、それを認めていくというスタンスだということです。

日本の法律では、一方的な解雇は厳しく制限されますが、強要にならない程度の退職勧奨は、認められています。それでも実際に行うとなると、解雇とほとんど同じようなイメージでとらえられますし、会社側もそれを逆手にとって、実質的には解雇なのに、退職勧奨の体裁をとっているようなこともあります。ネガティブなイメージしか持たれないのが実情でしょう。

そうは言っても、「価値観が合わない職場で働き続ける」ということが、不幸であることは間違いありません。もしも社員がそう感じれば、普通は退職となるでしょうが、これを会社から持ち掛けてしまうと、たぶん「ひどい会社」という捉え方になってしまいます。

しかし、「ひどい会社」と言われてしまう理由は、退職勧奨は多くの場合、ある日突然行われるからではないかと思います。会社としては、頑張って何とか雇用を維持してきたけれど、いよいよもう限界だというところで退職勧奨となるのかもしれませんが、何も言われてこなかった社員の側からすれば、ある日突然生活の基盤を奪われそうになる訳ですから、恨みを買っても仕方がないでしょう。

ただ、この「ミスマッチ制度」のように、事前に手順を明らかにして、恣意的運用がされない仕組み作りをして、突然ではなく順を追って、「会社としては価値観があっていないと見ているよ」と本人に伝えることは、厳しいようで実は親切な制度なのではないかと思います。

最近ある内輪の集まりで、「会社の仕事がつらい、つまらない」と愚痴をこぼす人に対して、経営者や自営業をしている数人が、口を揃えて「そんなに嫌なら辞めればいいのに」と言っていたことがありました。自分で自分の仕事を決めている人にとっては、そう思えてしまうのでしょう。

人それぞれの事情はあるので、何をどうすべきだと一概には言えませんが、「嫌な仕事をいつまでもやり続けるのは不幸である」ということだけは、私は間違いがないことだと思います。


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