2015年9月18日金曜日

どんなに準備していたつもりでも、納得しきれないことがある「事業承継」



主に中小企業の中で、事業承継が問題になっているといいます。
経営者の高齢化とともに、後継者がないという現実問題があり、さらにそれまで仕事に打ち込んできた経営者自身が、引退後の人生を描き切れないために、地位を譲ることに踏ん切りがつかないという心情的な問題もあるようです。

私自身も、こういう会社の経営者からご相談を受け、どうするかを一緒に考えることがあります。個人個人の感情に関わることなので、なかなか難しい部分がありますが、できるだけ納得できる方法を一緒に考えます。

そんな中でよく思うのは、事業承継を考え始める時期の遅さです。経営者の立場を譲るとなると、実際には10年単位の時間がかかりますが、それを自覚して準備しているような会社は非常に少ないです。社長が高齢になって、体力的にどうしようもなくなるなど、逃げ道がないことを自覚してから初めて考え始めるようなところも多いように思います。
ですから、事業承継に関するアドバイスをしているようなコンサルタントは、早めに準備することが大事であると口をそろえて言いますし、私もそれは確かにその通りだと思います。

ただ、これは私の知っている元経営者の方ですが、ご自身の引退後の生活プランのもとに、50代のうちから自分の引退時期を定め、自分の後継者は自分で決め、10年ほどの時間をかけて、スムーズな事業承継をして引退した方がいらっしゃいました。
私から見ていても、とてもきれいな引き方で、もしも自分が同じ立場であったとしたら、同じようにできれば理想的だと思うような形でした。

しかし、その後何年か経過してからその方にお話をうかがうと、少し考え方が変わっていました。
当初想定していた引退後の生活プランは、いろいろな事情があって思っていた通りには行かなくなり、そうなると自分の社会的な立場が、急になくなったような気がしたそうです。

そんな中で、たまたま元の会社に顔を出すと、みんなが明るく挨拶をしてくれ、古株の社員たちからは「また戻ってこないんですか?」などと声を掛けられ、ものすごく心が揺らくようなことがあったそうです。
自分では割り切って引退したつもりだったが、本当にそれが良かったのかどうかを、あらためて悩んでしまったことがあったそうです。

事業承継の実態を見ていると、資産の相続、会社の財務、関係者との人脈などという実質的な問題はありますが、それ以上に本人や周囲にいる人たちの感情的な問題が大きいように感じます。理屈ではわかっていても、自分が一生懸命育ててきた会社への思いは、それほど単純なことではありません。

事業承継は、いつかはやらなければならないことですし、そのための準備は早いに越したことはありません。ただ、理屈だけで簡単に割り切れるものでもありません。

私たちのように、第三者として会社経営に関わる者は、こんな部分でもしっかりご支援する必要があるのだと、あらためて思っているところです。


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