2015年5月25日月曜日

法律や社名公表でなく、市場原理で排除できるはずの「ブラック企業」


厚生労働省は、いわゆる「ブラック企業」の社名を、これまでは書類送検になった企業だけの公表から、是正勧告段階での公表を実施し始めました。

効果がどうなのかといえば、私は十分に意義はあるだろうと思います。ただ、こういう行政機関の対策には限界があることも事実だと思います。

私の人事コンサルタントという仕事柄では、労基署の監督官の方々と関わる機会がときどきあります。ごく一部では、硬直的と言っても良いような対応をされたり、不遜と思えるような態度を取られたりしたことがありますが、ほとんどの監督官は労働者と企業双方の実情を考えながら、適切な監督を行っていると思っています。

そういう方々なので、審査や調査そのものに対する信頼はありますが、対象企業に悪質さが見えたとしても、労働関係の法律は意外に曖昧だったり、調査しても外部からは見えづらい部分も多かったりするので、是正勧告まではなかなかできないことも多いと思います。社名が公表できるようなケースは、実際にはそれほど多くはならないのではないかと思います。

私が考えるブラック企業対策として、法的な規制をもう少し見直すことが一つありますが、もう一つ思うのは、市場原理が適切に働けば、「ブラック企業」は確実に生き延びられなくなり、勝手に消滅していくだろうということです。
振る舞いがおかしな会社では、そこで働こうという人がいなくなる訳で、社員がいなければ事業は行えませんから、俗に言われる「ブラック企業」は存続できなくなります。

「ブラック企業」がいつまでも存在できてしまうのは、そこで働かざるを得ない“雇用弱者”と言われるような人たちがいるからです。
最近は、学生を中心としたアルバイトに対しても、過酷な労働を課したり、法律違反にあたる要求をしたりする「ブラックバイト」といわれるものがありますが、これも学生が法律知識に疎かったり、学業との両立や勤務地の問題など、働く上で制約があることを逆手に取っているということでは、同じく“雇用弱者”にあたることから起こっている問題でしょう。

“雇用弱者”と言われる人への対策は、失業対策や職業訓練、求職者と企業のマッチング支援といった雇用対策、生活保護のような困窮者対策と共通していますし、景気が良くなれば自然に減っていきます。これからは労働人口の減少も相まって、ますます「ブラック企業」は生き延びづらくなっていくはずです。

ただ、一方で気になることもあります。
例えば、導入が検討されている「ホワイトカラーエグゼンプション」(残業代ゼロ法案と言われているもの)は、成立すれば「ブラック企業」の言い訳に使われる可能性があります。これまではグレーゾーンで法律違反に問えたものが、合法となってしまう懸念もあります。
生活保護や失業対策も、支給要件の強化や金額の引き下げという方向性が見えるので、“雇用弱者”がそのまま温存されてしまうかもしれません。
 景気回復とともに、市場原理に基づいて退場すべき「ブラック企業」が、存続する余地を与えてしまう可能性があります。

「ブラック企業」は、一定の法的規制とともに、市場原理にまかせれば、自然に減っていくものであるはずです。ただ、肝心の法規制が逆効果になりそうな心配もあります。これからも現場の実態を、引き続き見ていく必要がありそうです。


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