2015年2月23日月曜日

良薬か劇薬か、使い方次第で効果が二極化する「部下→上司評価」


あるテレビ番組の取材で、「部下→上司評価」に関するコメントを求められました。

そもそもの題材は、茨城県の大子町が、昨年末の選挙で返り咲き当選した町長の発案で、部下が上司を評価する「新たな勤務評定」を取り入れたということでした。
「進行管理力」「折衝調整力・対応力」「指導統率力」「責任性」「協調性」の項目を5段階で評価し、記名で封筒に入れてのり付けし、所属長に提出するとのことです。結果は町長のみが見ることができ、人事異動や昇給・昇格の参考資料として活用されるそうです。

導入の目的は、「行政サービスの向上」とのことで、町長によると、行政に対する苦情、不満が多かったということで、「管理職に緊張感を持って仕事をしてもらうのが狙い」「職員同士のコミュニケーションも活性化させて、行政サービスの質を高めていきたい」とのことでした。

 「部下→上司評価」や「360度評価」と呼ばれる制度は、ある調査によると、大企業での導入が25%を超えるなど、最近ではわりと一般的なものです。

「部下→上司評価」や「360度評価」のメリットとしては、
・結果のフィードバックで上司の自己認識が高まるなど、上司の能力開発につながる
・様々な人から多面的に評価されることで客観性が得られる
・部下とのコミュニケーションが活性化する
など。

逆にデメリットでは、
・評価に不慣れな部下から、評価基準のバラつきや印象評価など客観性のない評価がされる
・苦手な上司を追い出すような懲罰的評価がされる
・嫌われたくない意識から、上司が部下となれあいになる
などがあります。

実際に導入している企業でも、処遇反映に使うようなところはごく一部で、多くの場合は上司の能力開発を補完するような活用をしています。比較的マイルドな使い方が多いといえるでしょう。

その理由はなぜかというと、このような制度は、実施目的や組織風土、誰が誰を評価するか、結果を何に使うかといった運用方法、その他多様な要件によって、制度のメリット、デメリットが極端に出やすいということがあるからです。
例えば、メリットとデメリットの両方に「評価の客観性」に関するものがありますが、導入する環境や条件によって、まったく正反対の結果になる可能性があるということです。

今回話題の大子町でいくつか見てみると、まず“組織風土”として、行政組織は年次へのこだわりが比較的強い傾向があるので、下の者から評価されることへの抵抗感が、民間企業よりも強い可能性があります。この制度で抵抗感が強まるかもしれないですし、反対に壊す事ができるかもしれません。

次に実施目的が“不満や苦情が多かった行政サービスの向上”ということをみると、何か問題事象があったのかもしれないですし、このあたりは外部からはわかりませんが、多少懲罰的であったり、危機感を植え付けたいというイメージを持っているように感じます。これをきっかけに、危機感を持った自発的な取り組みがされるかもしれないですし、反対に現場が萎縮してしまうかもしれません。

さらに“運用方法”として、「記名する」ということで、報復を恐れて本音で評価しない懸念、「封筒のりづけで町長のみ閲覧」「異動、昇級昇格の参考にする」ということで、活用方法にブラックボックスの部分がく、現場の萎縮や疑心暗鬼を生む懸念がありますが、個別の上司・部下間の関係については、何か情報が得られるかもしれません。

 「部下→上司評価」や「360度評価」のような制度は、このように良薬にも劇薬になる制度です。
この大子町でも、きっとこれからいろいろ試行錯誤がされることだと思いますが、運用の中での些細な情報にも敏感にアンテナを張り、そもそもの目的である「行政サービスの向上」につながっていけば良いと思います。


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