2016年12月9日金曜日

「見える化」したのに使おうとしない社員たち



ある会社で、社内の各所にバラバラになっている様々な情報を取りまとめ、活用できるようにしようという「見える化」プロジェクトを実施した時のことです。

そもそもの発端は、組織内の調査を行った際に、社員から「社内にあるはずの情報が一元化されていないので使えない」「情報開示が適切でない」「単純な連絡事項さえ伝わってこないことがある」「営業状況など管理情報の開示が遅く、判断に支障がある」など、社内の情報開示の仕方や内容、共有方法などに問題があるという指摘が数多く出されたことからです。
これに対処しようという主旨で立ち上げられたのが、社内の「見える化」プロジェクトということでした。

管理部門を中心とした少人数のプロジェクトでしたが、定常業務の合間を使って、社内各所から意見を聞き、情報を取りまとめて開示する仕組みを徐々に整えていきました。
仕組みそのものの出来や整理された情報を見る限りは、かなり頑張ってそれなりに利用価値があるものを整えてきたと思えるものでした。

ただ、実際の活用状況はというと、当初はあまり活発とは言えない状況でした。そもそも社員たちの要望から始まったことで、特に管理職クラスからの指摘が多かったはずですが、その当事者たちの動きがよくありません。
どちらかといえば、新しく入社してきた人や若手社員の方が、仕組みや情報を積極的に使おうとしているのに対して、本来利用しなければ業務効率が上がらないと思われる管理職たちが、今までのやり方を変えようとしません。
それなりにシステム投資もしている中で、目に見えた成果は残念ながら出てきません。

管理職の何人かに話を聞くと、「自分の手元にある情報だけで特に困ることはない」「情報のタイムラグがあっても問題はない」などといい、中には「そもそもあげられている情報の使い方がわからない」などという者もいます。

「見える化」がうまく機能しないような場合、システムの出来栄えの問題や、情報自体の利用価値が低いなどという理由から、あまり利用されないというケースが見られますが、こちらの会社を見ていると、本来確認しなければならない情報を見る習慣がなく、雑な情報をベースにした雑な判断で仕事を進めることに慣れてしまっています。

いろいろ苦情を言っていたくせに、いざ情報が手に入るようになると、実はその使い方を知らなかったり、興味自体を持っていなかったということで、これはシステムや情報の質の問題よりは、利用する人間の側に問題があり、それは主に情報活用スキルの問題といえます。

その後この会社では、マネージャーからの報告書式や管理帳票などを、「見える化」した情報とリンクさせるような仕組みを作り、利用せざるを得ない形にすることで、徐々に仕事の仕方が変わっていき、迅速で正確な判断がされるようになっていきました。

せっかく情報を「見える化」していて、見ようとすればいくらでも見えるにもかかわらず、それを活用しようとしないのは、やはり人間は慣れた現状のままが一番楽で、仮にそれが非効率であったとしても、変えることを嫌がる傾向があるからではないかと思います。初めは自分たちから言い出したことですらそんな状態でした。

システム導入でも「見える化」でも、その目的は業務効率を上げて業績を伸ばすことで、現状を変えていくことです。本人の意思で自律的に変わってくれるならば、それが一番良いことですが、それだけでは人はなかなか動きません。
この会社では、強制的に使わせるような取り組みを行いましたが、人の行動を変えるということは、それほど難しいということです。変革の難しさをリアルに感じた一件でした。


2016年12月7日水曜日

「残業時間の上限規制」は本当に支障があるのか?



読売新聞がおこなったアンケート調査によると、政府が「働き方改革」の一環で検討している残業時間の上限規制について、主要企業の47%が業務への支障を懸念する一方、支障がないと考える企業も45%と、意見が拮抗しているというニュースがありました。

もう少し詳細を見ると、主要企業180社のうち、79%にあたる143社が回答し、上限規制で「業務に支障が出る可能性があるか」との問いに対して、「そう思う」が11%、「どちらかと言えばそう思う」が36%で、支障を懸念する企業の合計が47%、逆に「そう思わない」が17%、「どちらかと言えばそう思わない」が28%と、懸念しない企業の合計が45%ということです。

では実際にはどうなのかというと、私はやはり業種や仕事内容によっていろいろではないかと思っています。
ここからはあくまで私個人の想定ですが、特に人が直接行うサービス系の仕事や、できる人が限られるような専門技術系の仕事の場合は、テクノロジーなどを使ってもすぐに効率が向上するものでもなく、時間数はなかなか減らせないという感覚ではないかと思います。
逆に、これは業種や仕事内容を問わず、無駄な時間の使い方があると見ていて、効率化の余地があると考えている企業では、「支障は出ない」となるのではないでしょうか。

ただ、このアンケートの続きを見ると、気になることがあります。
それは、「長時間労働を減らすための課題は?」との問いに対して、“支障あり派”“支障なし派”ともに、一位の答えは「業務量を減らすこと」となっていることです。
これは、多くの企業では長時間労働の大きな要因を「業務量が多いこと」と考えていて、それを減らすことができるかできないかという認識の違いで、“支障あり派”と“支障なし派”に分かれているということです。

この点をもう少し考えてみると、「業務量が簡単には減らせない」という直接的な要因とともに、事業内容によっては、業務量を減らすことがそのまま売上を減らすことも考えられます。
そういう懸念があると、さらに「支障が出る」という考え方が強まり、それがなければ「支障は出ない」となるのではないでしょうか。

私個人としての驚きは、長時間労働の最も大きな原因が「業務量が多いから」と捉えている企業がこれほど多いということです。そういわれてしまうと、「簡単には減らせない」というニュアンスがより一層強まって、長時間労働対策自体が空洞化してしまう懸念を感じます。減らせない口実に使われてしまうのではないかということです。

私もいろいろな企業と一緒に仕事をしますが、その中では「単純なことなのにずいぶん時間がかかる」と感じたり、「そこまでやらなくても良いのでは」「それは無駄なことでは」と思うことが、かなりたくさんあります。
どちらかと言えば大企業の方がその傾向が強く、その中身も上司の承認や社内手続きなどといった、社内事情によるものが多いという印象です。コンプライアンス上の必要性などがあるにしても、効率化する余地はまだまだあると感じます。

長時間労働の主因は、本当に「業務量の多さ」なのか、それは本当に減らすことが難しいものなのか今一度検証する必要があるように思います。


2016年12月5日月曜日

もしも「通勤時間」を労働時間の一部と考えたら



先日、朝の通勤時間帯に乗客同士がもめて、駅の非常停止ボタンが押されたために、電車遅延が最大で75分にも及んだという記事がありました。
混んだ車内で、座っていた人の顔に、前に立っていた人のコートが何度も当たり、それをきっかけに言い争いになったことが原因とのことです。

「こんなことで電車に缶詰めにされてはかなわない」「最近はすぐにキレる人が増えた」「混んでいる時はお互い様なのに」など、当事者を非難する声が大多数ですし、私も基本的にはそれと同感です。

その一方、自分自身も混んだ電車内でイラッとすることはありますし、そこで何か相手から言われたりしたら、それこそ言い争いになってしまうかもしれないという心理状態になっていることが、ときどきあるのは確かです。
最近は、駅員への暴力沙汰が増えていると言いますし、そこではやはり深夜の飲酒がらみが多いようですが、電車の混雑も間違いなく人がもめる原因の一つではあるでしょうから、これをなくすには混雑状況を解消するしかありません。

この手の話を聞くたびに、私は「通勤時間」の意義というものを考えてしまいます。私自身が以前の企業勤務の時代から比較して、通勤電車に乗る回数が減ったことでよけいにそう思うのですが、こんなに大変な思いをして多くの人が一斉に移動することや、長時間通勤の人がたくさんいることが、果たして仕事上での良い効果を生んでいるのだろうかということです。

中には「オンオフの切り替え時間」「読書の時間」など、有意義に活用しているという人がいますが、逆にそのくらいのことしかできない時間とも言えますから、あまりメリットとは言えないように思ってしまいます。
人が集中して動くことで、日中の時間帯よりも所要時間が長く、さらに遅延も発生しやすいことなど、単なる移動の効率だけを考えても、やはりメリットはありません。

混雑や長時間の移動のせいで消耗する体力であったり、寝不足でも体調不良でも、急ぎの仕事がない暇な状況でも、休暇でなければ原則決められた時間に出社しなければならないことを考えると、これもあまり効率的には思えません。

ここで、通勤時間に関する統計を見てみると、総務省の平成25年の調査では、全国平均では片道27.6分、最も長いのは神奈川県で片道48.0分、次いで千葉県45.7分、東京都43.7分と続き、最も短いのは宮崎県で17.7分ということでした。大都市圏では往復1時間半以上かかる人が半数以上いる訳で、簡単に無視できるような時間数ではないと思います。

「通勤時間」というのは、仕事で拘束されている訳ではなく、本人が自由に使える時間ということで、労働時間にはカウントされませんが、オフィスで仕事をするためには絶対に必要な時間であり、労働時間に準じるものという見方もできます。

昨今の「働き方改革」では、テレワークや在宅勤務の推進が言われますが、“コミュニケーションがとりにくい”“作業管理がしにくい”など、仕事の効率が下がるというようなニュアンスで、あまり積極的に捉えようとしない向きがあります。

しかし、仮に「通勤時間」も労働時間の一部と考え、通勤に使う時間と体力を減らすことができれば、実質的な仕事の生産性を上げることと、働く人のプライベートの充実を両立することができます。

最近は、始業時間を遅くして時差出勤を可能にしたり、細かな時間単位の有休を取れるようにするなど、時間の柔軟性を認める企業が増えてきています。
しかし、「通勤時間」に関しては、個人の住宅事情や家庭の事情によることもあり、あまり仕事上の負担として重視されてこなかった面があります。遠距離通勤、長時間通勤などはあくまで本人の判断であり、会社が関知するところではないというような考え方です。

ただ、「働き方改革」の流れと合わせ、これから将来の働き方を考えていったときに、「通勤時間」は重要な要素です。今まで以上に配慮しなければならないものということを想定して、準備することが必要だと思います。